40 vs 60 L/min:Vapotherm社: High Velocity Therapyとハイフローネーザルカニューラの違いとは?

Vapotherm社のHigh Velocity Therapyは、呼吸困難をサポートするためのツールです。Vapothermは、医療行為を行ったり、医療サービスやアドバイスを提供するものではありません。ここに記載されているガイドラインは、レビューされた出版物、医師のインタビュー、および生理学的モデルの評価に基づいています。医療従事者は、使用前に言及されている製品の取扱説明書を参照してください。
Vapotherm社: High Velocity Therapyは、一般的なハイフロー装置(HFNC)と混同されることがよくあります。多くの研究ではこの2つを区別していませんが、ランダム化比較試験では、救急での未分化の呼吸困難における成人患者さんの治療において、High Velocity Therapyは非侵襲的陽圧換気(NPPV)と同等の結果を示すことが示されており、医療分野では徐々に変化しています。 [1] また、FDAがPrecision Flow Hi-VNI™の新しい製品コードを作成し、この技術を汎用のハイフロー装置とは異なるカテゴリーに分類したことでも、少しずつ変化しています。
しかし、その違いは一体何なのか、多くの医療従事者が疑問に思っています。簡単に説明すると、High Velocity TherapyはMask-Free NIV®であり、頻呼吸、低酸素血症、呼吸困難、他の病状による二次的な呼吸困難など、呼吸困難に陥っている患者さんの換気をサポートするものです。一方、従来のハイフロー装置は、酸素供給をサポートします。それぞれの装置の間には、結果の違いに繋がる多くの装置設計上の違いがあります。
なぜVapotherm社: High Velocity Therapyは40 L/minまでなのか – 流量についての仮定と、なぜ多ければ良いというわけではないのか?
High Velocity Therapyと一般的なハイフロー装置は、呼吸をサポートしながら患者さんの快適性と耐性を維持するという点で、同じような目標を持っています。この2つの製品の違いの1つは、設定できる最大流量値です。しかし、目に見えない重要な違いとして、流量を供給する際の速度の違いがあります。これらの違いのメカニズムを理解することは、患者さんの転帰の違いを明らかにすることに役立ちます。
もし、この2つの機器の流れの特性が同じであれば、最大流量が大きい方が効果的であると考えられます。一つは、患者さんの呼吸ニーズに応じて、臨床医がより広い範囲で調整できることです。もう1つは、流量が多ければ、より効果的に酸素化を維持し、より大きな流量で換気をサポートすることにより、中等度または重度の呼吸困難に陥った患者さんを救助できる可能性があるということです。しかし、High Velocity Therapyと一般的なハイフロー装置は、同じように流量を供給するわけではありません。患者さんの転帰に影響を与える大きな違いがあります。
High Velocity TherapyとHFNCの流量の違いについて
一般的に認められているHFNCの作用機序は以下の5つです。[2]
- 上気道の死腔の洗い出し
- 適切な流量の供給による呼吸仕事量(WOB)の軽減
- 十分な加湿と温かいガスで肺のメカニズムを改善
- ガスの調整(加熱および加湿)にかかるエネルギーコストの削減
- 陽圧の供給(CPAPのようなもの)
High Velocity Therapyは、最適な状態のガスを実現する方法に違いがありますが、最初の2つのメカニズム(死腔の洗い出しとWOBの低減)は、流量に関する議論に最も関連しています。
High Velocity Therapyと死腔: High Velocity Therapyは、鼻咽頭の死腔を洗浄するため、流速に重点を置いたアプローチを用います。ほとんどの商品であるハイフロー装置とは異なり、 High Velocity Therapy では小口径のカニューラを使用します。2016年に行われた研究 「Computational Fluid Dynamics Modeling of Extrathoracic Airway Flush: Evaluation of High Flow Nasal Cannula Design Elements」(胸腔外の気道を洗い流す計算流体力学のモデリング:High Velocity Therapyのデザイン要素の評価)において、Miller氏らは、小口径カニューラのプロングが大口径カニューラよりも速く死腔を洗い出すことを実証しました(小口径カニューラ2.2秒 vs 大口径カニューラ3.6秒)。[3] 小口径カニューラが生み出す速度により、効果的で迅速な洗い出しを実現するため、これは臨床的に意味のあることです。図1は、High Velocity Therapyと一般的なハイフロー装置との比較を示しています。

High Velocity TherapyとWOBの減少:呼吸困難に陥っている患者さんの呼吸数が増加すると、呼吸の間隔が短くなるため、小口径カニューラが上気道死腔を完全に洗い出しするのに必要な時間を短縮するという事実[3]は重要です。CO2を多く含む呼気終末期のガスを上気道の死腔からすばやく取り除くことで、High Velocity Therapyは患者さんへの新鮮なガスの取り込みをサポートし、それによってWOBを減少させます。
小口径カニューレの限界として、かなりの背圧が発生することが挙げられます。しかし、Vapotherm社のPrecision Flow Capitalユニットは、小口径カニューレ専用に設計されているため、High Velocity Therapyを効果的に行うことができます。
従来のハイフロー装置: 従来のHFNCは、患者のWOBを減らすために上気道の死腔内の洗い出しをします。前述のように、これらのシステムのほとんどは、大口径のカニューレを使用しており、小口径のカニューレで高流量を供給する際に、装置が発生する圧に対して、耐えるように設計されていません。したがって、重要な違いは、これらのシステムの作用機序が、60L/minなどのはるかに高い流量に依存しており、体積洗浄によって速度の不足を補おうとしていることです。
同じ量であれば、なぜ早く届けることが重要なのか?
なぜ速度が重要なのか、簡単にはイメージできないことがあります。つまり、ある機器が1分間に25リットルの流量を供給し、別の機器も同様に供給すれば、患者は1分間に25リットルの流量を受け取ることになるのではないでしょうか?答えはイエスですが、どのように流量を供給するかが重要です。
良い例えは、水やりに使用する庭のホースです。2本のホースが並んでいて、まったく同じ量の流量を供給していれば、その性能は同等です。しかし、片方のホースの蛇口に親指を当てて、開口部の一部を塞ぐと(細長いカニューラのように)、水はより遠くまで飛んでいきます。図2に示すように、体積は同じですが、開口部の小さい方から流れてくる水の方が、より速く、つまり大きな速度で流れていきます。

速度が大きくなると、乱流エネルギーが大きくなり、上気道の死腔にCO2を多く含む呼気終末期のガスをより速く流すことができます。[2]
High Velocity TherapyとHFNCの臨床結果の違いについて
本稿執筆時点では、Vapotherm社のHigh Velocity Therapyは、非侵襲的陽圧換気(NPPV)に匹敵する臨床効果をもたらす速度ベースの作用機序を含む唯一のMask-Free NIVです。[1] 2018年、Annals of Emergency Medicine誌は、Doshi氏らによるHigh Velocity Therapyと非侵襲的陽圧換気を比較した多施設共同無作為化比較非劣性試験「High Velocity NasalInsufflation in the Treatment of Respiratory Failure」では、過呼吸を含む未分化な呼吸困難を訴えて救急外来を受診した成人に対して、挿管のリスクに関して、High Velocity TherapyがNPPVに対して非劣性であることが明らかになりました。 言い換えれば、挿管のリスクは増加しなかったということです。
新生児においても、nCPAPやBi-PAPと同等の結果を示すエビデンスがあります。Lavizzari氏らは2016年8月、「Heated, humidified high flow nasal cannula vs nasal continuous positive airway pressure for respiratory distress syndrome of prematurity – a randomized clinical noninferiority trial.」(早産児の呼吸窮迫症候群に対する加温加湿のHNFCとnCPAPの対比-ランダム化臨床試験)と題した無作為化単項目の非劣性試験の結果をJAMA Pediatrics誌に発表しました。この試験は、明示的にHigh Velocity Therapyを検討したものではありませんが、Vapotherm社のHigh Velocity Therapyに限定して行われました。 主要な結果は、RDSの乳児の一次サポートを目的とした場合、HFNC(ここではVapotherm社:High Velocity Therapy)はnCPAPまたはBi-PAPと比較して非劣性であるというものでした。[4]
それに比べ、従来のHFNCとNPPVとの比較を検討した研究では、低酸素血症の症状がある患者さんのみに焦点を当て、 高炭酸ガス血症を除外する傾向があります。例えば、2017年に発表された多施設共同無作為化対照試験において、Frat氏らは「HFNCは、低酸素血症のARF患者さんの治療として、標準的な酸素療法とNPPVの良い代替手段となるようだ」と結論づけています。[5] 同様に、2016年に発表されたHernandez氏らによる無作為化臨床試験では、次のような疑問が調査されました。”Is high flow nasal cannula vs noninvasive ventilation for preventing reintubation and post extubation respiratory failure?”[6]彼らは、成人患者さんへの再挿管を防ぐために、HFNCのNPPVに対する非劣性を見出しました。しかし、Frat氏らと同様に、彼らの研究デザインは再び高炭酸ガス血症を除外しています。
要するに、High Velocity Therapyが、過呼吸を含む未分化な呼吸困難を治療するツールであることを示すエビデンスがあり、従来のHFNC装置には、これを証明する証拠はないのです。
流量の決定要因としての臨床効果
臨床医は臨床効果に合わせて流量を調整する必要がありますが、Vapotherm社: High Velocity Therapyは一般的に、成人では25~35L/min、新生児では6~8L/minの間で臨床効果が得られ、小児患者の場合は体重1kgあたり1.5~2L/min、8kgまでの設定が推奨されています。[7]
参考までに、Doshiらのランダム化比較試験で呼吸困難のために救急へ搬送された全入院患者への開始流量は35L/minでした[1]。また、試験全体の平均流量は30L/minでした。
最終的に、どのモダリティとどの流量を使用するかを決定する際には、臨床医はエビデンスに基づく実践に従うことが重要です。
当社の営業、クリニカルチームがVapotherm High Velocity Therapyを使用した患者さんの治療向上に貢献します。
REFERENCES
[1] Doshi, Pratik et al. High-Velocity Nasal Insufflation in the Treatment of Respiratory Failure: A Randomized Clinical Trial. Annals of Emergency Medicine, 2018. Published online ahead of print. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29310868
[2] Dysart K, Miller T, Wolfson M, Shaffer T. Research in high flow therapy: Mechanisms of action. Respiratory Medicine. 2009; 103: 1400-05. (Review)
[3] Miller TL, Saberi B, Saberi S (2016) Computational Fluid Dynamics Modeling of Extrathoracic Airway Flush: Evaluation of High Flow Nasal Cannula Design Elements. J Pulm Respir Med 6:376. doi: 10.4172/2161-105X.1000376. (Bench, Prospective, Not Randomized) https://www.omicsonline.org/open-access/computational-fluid-dynamics-modeling-of-extrathoracic-airway-flush-evaluation-of-high-flow-nasal-cannula-design-elements-2161-105X-1000376.php?aid=81462
[4] Lavizzari A, Colnaghi M, Ciuffini F, Veneroni C, Musumeci S, Cortinovis I, Mosca F. “Heated, humidified high-flow nasal cannula vs nasal continuous positive airway pressure for respiratory distress syndrome of prematurity – a randomized clinical noninferiority trial.” JAMA Pediatr. 2016 Aug
[5] Frat, Jean-Pierre, Rémi Coudroy, Nicolas Marjanovic, and Arnaud W. Thille. “High-flow nasal oxygen therapy and noninvasive ventilation in the management of acute hypoxemic respiratory failure.” Ann Transl Med. 2017 Jul; 5(14): 297. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5537116/
[6] Hernández, Gonzalo, Concepción Vaquero, Laura Colinas, et al. “Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Noninvasive Ventilation on Reintubation and Postextubation Respiratory Failure in High-Risk Patients A Randomized Clinical Trial.” JAMA. 2016;316(15):1565-1574. doi:10.1001/jama.2016.14194 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2565304
[7] Weiler, Thomas MD, Asavari Kamerkar DO, Justin Hotz RRT, Patrick A.Ross MD, Christopher J.L.Newth MD, FRCPC, Robinder G.Khemani MD, MsCI. The Relationship between High Flow Nasal Cannula Flow Rate and Effort of Breathing in Children. The Journal of Pediatrics Volume 189, October 2017, Pages 66-71.e3. https://doi.org/10.1016/j.jpeds.2017.06.006